人間と人間の関係とは


私は地方公務員として、各種の福祉施設に勤務してきた。知識障害者の入所更生施設を始めとして、情緒障害児短期治療施設、身体障害者通所授産施設、身体障害者スポーツセンター等だ。各々の施設でいろいろな障害を持つ人たちと出会い、介護を通じて少しずつ打ち解けて親しくなることにより、障害を持って生きていくことの大変さ、障害がある故の世界観なども少しずつ理解できるようになり、障害者が社会の中で置かれている立場、法律の問題なども考える機会を持つことができた。
当然介護の仕方についてもある程度慣れることもでき、その人に応じた対応もできるようになったと思っている。
そんな私が困ったのは、自分の母親が今から7年ほど前に体調崩した時だ。母は父が亡くなった後、他県にある私も高校卒業するまで一緒に生活していた公営住宅に1人で住んでいた。ただ年齢的にも90歳を過ぎ、いつかはそうなることが分かっていたはずなのに、いざそうなると困った。私の住む家に母を迎えることを真っ先に考えたが、そうなると当然私が仕事をしているため、介護は妻に任せることになってしまう。自分が仕事で他人の介護をする事は当たり前と思っているのに、自分の母の介護を身内であるはずの妻に任せることに抵抗を感じてしまったのだ。もちろん妻は介護を頼まれても嫌な顔などをすることなく、引き受けてくれただろう。母も嫌がることなどなかったと思われる。でも違うのだ。介護と言うのは生活全体の補助をすることであって、その中には入浴、排泄等、もし自分自身が他人に任せるとすると抵抗を感じてしまうかもしれない、そんな行為なのだ。

母は私の思いを見透かしたように「私の事は気にしないで」と言ってくれていた。結局母は本人の希望通り、我が家に来る事はなく、住所地の近くの老人施設に入所することになり、最後までそこで暮らした。私としては、自分の身内すら介護できないくせに、他人の介護の仕事をしていることに腹が立つこともあった。でもそんなものなのだろう。仕事だと思うから、そして他人だからこそ、優しくできることもあると思う。人間と人間の関係って、少し距離を保って触れ合うほうが、うまくいくものなのかもしれない。


(愛知県・M.T/男性)