介護で気づいた家族の気持ち
父が亡くなった。九十五歳だった。母から知らせを受けて七時間もかかって実家に着いた時は真夜中だ った。父はいつもの様に明るく、穏やかな顔をしていた。そこには、長男に生まれたが、家業も継がず、都会に出たいという願いを快く認めてくれた父がいた。 私は、年老いた父の介護を独り暮らしの母に任せっきりにしていることをいつも申し訳ないと思っていた。
定年を迎えたら故郷に戻り、母の手伝いをしようと考えていた矢先の死だった。近くにいる妹は毎週のように自宅に来て父を入浴させるなど、母の介護を手伝っていた。私は母に深く詫びた。母は、優しく微笑みながら、
「お父さんも私も、そんな事は全く思っていないよ。 むしろ感謝している。お父さんはよく言っていた。お前たち家族が、お盆とお正月には必ず帰って来て、元気な顔を見せてくれる。先祖のお墓にもお参りしてくれる。父の日には必ずプレゼントや手紙を贈ってくれる。有り難い有り難いと。それに、普段は飲まないけれど、お前が帰ると、一緒にうすい水割り焼酎を飲むことをとても楽しみにしていたよ。お前が全国に転勤 する度に、夫婦で訪ねて行ったね。その時の写真を見 ながら何回も何回も楽しそうに話していたよ。お父さんはお前が元気にしているか、いつ帰るのかと、常に気にしていた。介護をしなくて済まないと言うが、お 父さんはお前に世話になるよりも、逆に心配していた んだよ。食事や生活の世話をしたのは私だが、お前は お父さんの生きがいだった。そして、どこにいても故郷を忘れずにいる。立派な我が家の跡取りだ、と言って喜んでいたよ。」と、話してくれた。
済まないという気持ちと嬉しい気持ちが心に満ちてきて、涙が止まらなかった。
(東京都・K.O/男性)