言葉の介護


私は32年前、夫の父を病院で家族で交代で介護をしました。その時、言葉での介護を体験して涙を流したのを覚えています。水道水も山の水も味がわからないで寝ていた夫の父は、普段飲んでいた山から家にひいている山の水を飲みたいなぁと言ったのです。病院から家までは車で1時間もかかります。夫は車ですぐ行ってくると言ったのですが、夫の父はもう大変だったのです。その時私は病院の水を夫の父に「山の水だから飲むべしね」と口に含ませました。夫の父は「うんめいなぁ」と涙を流しました。それが最後でした。今覚えているその時のことを、可哀想な、申し訳ないような気がしています。でも時間がなかったのです。私はその当時、30代で介護経験もなかったのですが、その時だけはとっさの行動でした。病室で家族の父の周りで涙して、私にありがとうと言ってくれました。今でもあの時のことを、夫はすまなかったと言ってくれ、感謝してくれました。来年は33回忌です。今は市の水道が入り、山の水は使用していない夫の家族では兄夫婦が家を守っていますが、山の沢の水のどこかで見つけ、飲ませてあげたいと思っています。私はこの体験を娘たちにも話してやりました。私の忘れられない言葉の介護です。

 


(岩手県・K.S/女性)