笑って過ごせる日


私の母は1人では何もできない人、何かをするときはいつも私を頼る人でした。その母が認知症になって、徘徊や幻聴が始まりました。いつも母に聞こえてくるのは、「友達が車で病院まで送ってくれるから外で待っていなさい」と言うことでした。実際には誰も迎えになの来ません。そのことを何と言い聞かせても、母は病院へ行く用意をして外で待っているのでした。

冬の寒い夕暮れの日、いつものように母が外へ出て行くので、私は放っておくことにしました。こんなに寒いんだからすぐに戻ってくるだろう、と思ったのです。すると母は翌朝6時までずっと外にいたので、私が迎えに行くと母は私に抱きついてきました。その時私は、「お母さんなかなか頑張れる人なんだなぁ」と思いました。私がいないと何もできない母が、幻聴とは言え1人で一晩中自分の意思で外に立っていたのですから、驚きでした。

それから私は、母がどんなことをしても無理に止めずに褒めてあげるようにしました。「一晩中外で立っていたなんてすごいね、寒かったのにがんばったね」すると母は嬉しそうに笑うのでした。認知症はとても対応が難しいものですが、褒めてあげることで、母はニコニコ笑うようになりました。意味は分かっていなくても、笑って過ごせる日があった方が母には嬉しかったのでしょう。笑いながら死んでいけたことを良かったと思っています。

 


(兵庫県・Y.T/女性)