母の生き方


顔に不快感を覚え、鏡を覗き込んだ。すると近づかなければ見えない程の髪の毛が1本、張り付いていた。私はそれを摘むと、ふと、母のことを思い出した。「こんな簡単な動作でさえ、母にはできなかったのだ」と。
母が突然、救急車で運ばれた。《筋萎縮性側索硬化症(ALS)》だった。入院中、母はいつも枕の位置を気にしており、直しても直しても、”出せない声”で「ま・く・ら」と家族に要求した。当時は「単なるわがまま」と思い込み、心ない態度を取ってしまったこともあったが、そんな時でさえ、母は決して感情的にならなかった。いや、むしろ、病室を訪れる度に「い・い・子」、「あ・り・が・と・う」と、私を癒してくれた母に、今は感謝している。
時として、感情のままに動いてしまうこともあるが、やはり、「いつも、どんな状況下でも、平常心でいる」という事は、あらゆる場面で大事なんだと、母の生き様から学んだ。


(群馬県・K.K/女性)