本当の心の絆


両親の衰えは突然やってきた。今考えれば兆候はいくつもあったのだが、加齢によるものだろうと思っていた。気が付いた時には、母の心は完全に壊れていた。
父は慌てふためくばかりであった。私は、そんな父を叱咤し、心の中では施設と懐事情を考えていた。しかし考えはまとまるはずもなく、結局は仕事に逃げた。妻は「どちらかが健在なうちは、まだ私の出番ではない」と言い、私は目の前が真っ暗になった。「そんな殺生な」
しかし、妻の真意は別なところにあった。むしろ、私よりはるかに両親のことをわかっていた。男勝りで常に父をリードしていた母であったが、実は夫を頼りにしたかったのだ。逆に父は母に頼り切りの人生だった。この機会を逃したら、二人が夫婦として向き合うことのないまま終わってしまう。だから父に「母の夫」になってほしい。
私はもちろんのこと、子供たちも妻の思いに協力して、父を立てるように動いた。母の心は壊れたままであったし、最後まで、母は父に夫としての合格点を出せる状況にはならなかったが、息子の私の目から見て0点だったものが50点くらいにはなったように思う。
妻と子供には本当に頭が下がる思いだ。ケアマネさん、デイケアの施設その他多くの方のご助力にも感謝しかないが、母の介護を通じ、私たちは家族として本当の心の絆を得たように感じている。


(埼玉県・M.K/男性)