「縦の関係」を見つめ直す。


江戸時代に清貧の中で求道生活を続け、近江聖人と称された中江藤樹(一六○八~一 六四八)は、「孝は私をやぶりすつる主人公なり」(『翁問答』岩波文庫)と述べています。
人が「私(利己的な欲求)」に流されそうになるとき、それを打ち破る「孝」の精神。 それは、親祖先から子孫へとつながっていく「縦の関係」の中で自分自身を見つめ直すことによって、はじめてみずからを律していけるということでしょう。人は「縦の関係」を意識したときに、肉体的な面でも精神的な面でも、すべて「祖先から受け継いだものを将来の子孫に受け渡す」という使命を帯びていることに気づくのです。 「好ましくないことと分かってはいても、なかなか抑えられないのが自分中心の心で す。これを律する鍵は、同じ時代を生きる人や社会との絆だけではなく、こうした 「縦の関係」の中での心の絆にあるといえるのではないでしょうか。


出典:ニューモラル 心を育てる言葉 366日