物質と精神の調和を図る


「人として品性を完成することが、私たちが生きていくうえでの究極の目的であるといえます。しかしそれは物質を軽視し、精神の充 実のみを目指すことではありません。人間の生活は、精神生活と物質生活とのバランスによって成り立っているからです。

いくら心を豊かに保とうとしても、毎日の食べ物に事欠いて、不便な生活を続けていたら、いつしか心はすさんでしまうでしょう。「衣食足りて礼節を知る」ということわざがあるように、必要十分な物質を得ながら落ち着いた生活を送ってこそ、精神を高めていくことにも心を向けていけるはずです。

しかし物質と精神との関係において、調整しにくいのが「人間の欲望」です。欲望には限りがありません。いくら物質が豊富にあっても、「もっとほしい」という気持ちが湧いてくるものです。「つまり物質があれば精神が整うわけでもなく、精神が整ったら物質が要らなくなるわけでもないということです。

「人間尊重の精神をもって、温かい人間関係を築きつつ、品性の完成を目指していきましょう。同時に、人間生活を豊かに営んでいくための物質も尊重し、物質の量を追い求めるのではなく、「与えら れた物の価値を正しく生かしていく道」を探るのです。そうすることで、調和のとれた生活を築くことができます。


出典:「三方よし」の人間学-廣池千九郎の教え105選