「樹静かならんと欲すれども風止まず、子養わんと欲すれども親待たず」


「樹静かならんと欲すれども風止まず、子養わんと欲すれども親待たず」(『韓詩外伝』)
風が吹いて樹木がざわざわと音を立てていて、それを静かにさせ たいと思っても、風が吹いている間は止めることができない。子がそれなりに出世をし、生活にもゆとりができて、今なら親孝行がで きると思っても、親はそのときを待たずに世を去っていることが多 い。自分の力ではどうにもできないことを、二つの事柄を対比させて見事に表現しています。
日本にも「孝行のしたい時分に親はなし」ということわざがあり ます。いずれも、「親がいるうちに孝行をしておかなければいけな い」ということを私たちに諭してくれる言葉です。
廣池千九郎は上京後の明治三十五年、六十代になっていた両親を 呼んで東京見物をしたことがあります。その後まもなく、母親は急 性腸カタルで亡くなりました。その訃報が届いたとき、もちろんた いへん悲しみましたが、一方では、「あのとき東京見物に連れてい き、楽しませることができた。最後に親孝行ができてよかった」と いう思いも湧いてきました。それがなかったら、おそらくたいへん 後悔していたでしょう。たとえお金や時間がなくても、将来ではな く今、親孝行をしておくべきなのです。


出典:「三方よし」の人間学廣池千九郎の教え105選