常に資金の余裕を持つ


企業経営においては、「質を重んじ、量を次とし、労を積んで大成する」ことを旨としなければなりません。よい品物を提供し、いたずらに量の拡大を求めず、地道に働き続けることで、その結果として大きく成長していくということです。

ところが現在の資本主義の世の中においては、資本の大半を使っ てたくさんの材料を仕入れ、たくさんの人員を雇い、策を弄して売りまくることで利益を上げようとする経営者が多いのです。そこには人間を尊重した奥ゆかしい心づかいなどありません。たまたま成功することもあるかもしれませんが、多くは長続きせず、いずれ縮小や倒産の憂き目に遭ってしまうのです。

理想の経営を行う際の具体的な手法としては、例えば原材料費など、そのときの生産量に応じて増減する支出の部分を、平素から低く抑えておくようにします。つまり、資金の余裕を常に残しておくのです。人員や設備においても同様のことがいえます。

そうすれば、突発的で深刻な不況に見舞われ、過剰在庫が発生す るような状況でも、従業員の賃金を払い続けることができます。それで数カ月間持ちこたえれば、その間に態勢を立て直せるはずです。従業員を大切にする道徳的な経営を行うには、会社の数字についても鋭い感覚を持たなければいけないということです。


出典:「三方よし」の人間学廣池千九郎の教え105選