事物は人間の幸福のためにある


事物とは、「こと」と「もの」とを合わせた言葉です。世の中はすべて「こと」と「もの」とによって成り立っています。「こと」とは、物の働きや性質、関係性など、世の中の抽象的な部分・側面 であるといえます。「もの」とは、いうまでもなく物質です。

人間に関わる事物は、基本的にはすべて人間の安心や平和、幸福のためにあるといえます。例えば衣食住は、生活に欠かせないものであると同時に、安心感や平和、幸福感を味わわせてくれるものでもあります。衣食住に関連するさまざまな商品やサービスが世の中に存在し、日夜進歩を遂げていくのは、人間がより安心して、より平和に、より幸福に暮らしていくためでしょう。

ところが、あらゆる事物は人間の幸福のためにあるにもかかわらず、事物によって人間が苦しむこともあります。欲しい物が手に入らないとか、物質を奪い合って争いを起こしてしまうとか、会社の利益を上げるために従業員が苦しんでいるとか、競合他社と過当競争をして会社が疲弊していくとか……。

それらはいずれも「人間よりも事物のほうが大切である」という考えの表れではないでしょうか。人間を犠牲にして事物を得ようとするのではなく、「人間を幸福にする」という事物本来のあり方を、見つめ直したいものです。


出典:「三方よし」の人間学-廣池千九郎の教え105選