道徳的経営のあり方


商売を道徳的に行うということについて、もしかすると商売をしている人の多くは誤解をしているのかもしれません。
例えばある商店経営者は、常に努力し、優れた商品を厳選して仕入れているとしましょう。それに適正な価格をつけ、お客に対して素晴らしい接客を心がけています。もちろん安全にも十分に気をつけています。仕入れ先とも、購入してくれるお客とも現金取引を行い、財務状況を健全に保っていました。
確かに良心的で堅実な経営をしているように見えます。一見すると道徳的な経営のように思われるかもしれません。もちろん真面目に商売に取り組んでいるのは間違いないと思われます。
しかし、右に挙げたような商売上の取り組みも、より大きな利益を上げていくための利己的な手段にすぎないといえるでしょう。これをもって道徳的な経営であるということはできません。 真の道徳的経営とは、よい品を親切に売るだけでは足りません。
慈悲の心を持ち、商売を通じて触れ合う人々に道徳的な生き方を伝え、心を利己心の呪縛から救っていく心構えが必要です。直接それができなくても、そのように活動する人を金銭的に援助するなど、間接的に支援するのも有効です。より多くの人々を聖人の教えに導こうと願い、商売を展開していくのです。


出典:「三方よし」の人間学廣池千九郎の教え105選