介護
父と息子の絆

療養病院がコロナで面会停止になって以来、父の顔を何か月も見ていない。九十六、脳梗塞で倒れて入院。一度は家で療養するまで回復したが、再発でどうしようもなくなった。顔を合わせても反応は鈍くなる一方だが、顔が見えないと寂しくてたまらない。
車いすに乗せられた父がボロボロ涙を流したのは最初の入院時。数日前まで何不自由なく過ごしていたのが、いきなり言葉も体もままならなくなったのが、悔しいと訴えかけているのが、不思議にも分かった。父と息子の絆がなせるワザだったのかも知れなかった。
自宅に戻った父は、不自由な体と言葉ながら目を輝かせてみせた。家族を大事に考える父の本領発揮だった。しかしすぐ再発した。
転院を重ねた父はベッドに寝た切り状態だが、「親父元気か?俺息子の〇〇やぞ」と声をかけてやれば必ず目が反応してくれる。生真面目で律儀な性格を引き継いでいる息子へ、最後まで何かを伝えたいかのように。
(兵庫県・T.S/男性)