モラル
「自我」にとらわれない心
自分という存在を意識している間、私たちはどうしても自分の利害を考えがちです。自分が被る害を減らしたい、少しでも得をしたいという気持ちがある限り、利己心は克服できないでしょう。
目標にすべきは「自我」にとらわれない広く柔らかな心です。私たちが主体的に物事を考え、判断し、行動するには「自我の確立」が不可欠ですが、これが過剰にはたらくと、「我が強い」「我欲に走る」「我執にとらわれる」などとも言うように、自己中心の度合いを増していくのです。もちろん自我を持ちながら、これにとらわれないというのは簡単なことではありませんが、ひとまず自我のことは考えず、万物にふり注ぐ日の光のように分け隔てのない温かい心 を思い浮かべ、自分もそのようにありたいと願ってみましょう。そして日々、できるだけ自分のことは後回しにして、周囲の幸せを願って行動するよう心がけるのです。こうした態度を徹底していくうちに、いつの間にか利己心が薄れていくのではないでしょうか。
それは変にへりくだるとか、むやみに消極的になるとか、極端に禁欲的になることではありません。自我にとらわれないといっても、自分の権利や人格を完全に失うわけではありません。
むしろこうして深い慈愛の心を身につけた人は、周囲から信頼され、自由で喜びに満ちた人生を歩むことができるのです。
出典:「三方よし」の人間学-廣池千九郎の教え105選