介護のプロとしてのプライド


「ほら、ご飯きたよ。食べよう」そう言って隣にいる妻Bさんの食事介助をはじめるAさん。奥さんも食事介助を受けて笑顔でニコニコしながら食事をしている。
何のことはない日常の食事風景と思われるかもしれないが、二人とも私が勤務している有料老人ホームの利用者なのだ。
実は、この妻Bさん日頃から強い介助拒否のある方で、ケアスタッフが食事介助をしても全く食事は進まない。それどころか、口に運んだ食事を吐き出したり、手に持たせた飲み物の入ったカップをケアに投げつけるのは日常茶飯事である。しかし、家族である夫のAさんが介助に入った途端に笑顔でニコニコして拒否なく簡単に食べてくれる。
一ケアスタッフとしては、力不足であり素直にくやしいところではある。しかし、同時にそこは家族の絆そのものであり、ケアスタッフでは絶対に超えられない一線なのではないだろうかということである。
私が、ケアスタッフとして介護の仕事をしていてあらためて気づいたことは、ケアスタッフと家族の明らかな違いです。ケアスタッフとして日頃から高齢者の介護に携わってはいますが、家族とケアスタッフは違うということを常に感じています。
たとえば、家族であれば「そんなことはしない、やめなさい」などかなり強い口調で怒鳴りつけたりすることは当たり前にありますが、ケアスタッフが同じことをしたら大変なことになります。その違いを認識した上で、プロとして介護をしていくことが、私は介護職の役割だと考えています。
介護の世界では、一つの理想として家族のようにスタッフがケアをしていくということがあります。しかし、私はそれは前述のように限界があるものであって、絶対に家族にはかなわないものだと思います。
同時に、プロとして日々介護をしていく中で、家族とはまた違った「やりがい」があるのも介護の仕事。
前述のように、日頃から介護拒否が強くケアが介助しても食事を食べてくれないBさん。しかし、夫が介助したら簡単に食べてくれます。そのような家族の絆の力はどう頑張ってもケアが越えることはできません。そのことは、日々のケアを通して感じています。
プロはプロとしてのプライドや誇り、技術、心といったものを背景として日々の仕事に取り組んでいくことが大切ではないか。
先日も、Bさんをベッドから移乗した際に夫のAさんから「ありがとう」と笑顔で声をかけられました。
介護の仕事は日々大変なことはたくさんありますが、利用者からの「ありがとう」の一言に日々救われています。
介護で気づいた家族の絆、その絆やつながりにケアスタッフはとてもかないませんが、介護を通して利用者と絆を深めることが出来るはずです。
これからも介護のプロとしてのプライドをもってこの仕事を続けていきます。


(神奈川県・K.O/男性)