「ありがとう」


孫と母の世話。いわゆるダブルケアをしている。孫のオムツがえは何ともないが、母となると一気に滅入る。
「かえましょうね」と第一声を明るくするものの、鼻がもげそうなニオイに思わずそっぽを向く。だけど母は言う。
「ありがとなあ」って。
母は昔から気難しく、言葉で感謝を伝えるような人ではなかった。何に対しても厳しく、世間の迷惑にならないようにが口癖だった。しかし時を経て、こうして介護をされる立場になり、もしかしたら「迷惑をかけている」と思っているのかもしれない。最近は頻繁に「ありがとう」を言うようになった。
介護は重労働で大変なこともある。しかし、やっと母の温かい愛情を感じられるようになり、少しだけ嬉しくもある。
「ありがとう」を聞くたび、鼻をつくようなニオイさえどこか愛おしい。介護冥利に尽きるとでも言おうか。


(広島県・Y.O/女性)