認知症の父


私の父は94歳になり、認知症ではないがかなり呆けて数分前のことも忘れてしまうことが多い。数分おきに同じ言葉を繰り返す。それは、一緒に住んでいない孫に小遣いをやりたいというのである。もうもらった、と何度言っても数分後にはまた繰り返す。それほど孫がかわいいのだろう。
また、食事時や車に乗って車窓を眺めるだけで幸せだと言う。昔は頑固で厳格だったがやがて厳しさは影を潜め、呆けた頃からこうした感謝の言葉を口にするようになった。そんなことを言うなるなんて若い時には夢にも思えなかった。その姿を見ていると年を取るのも悪くないと思える。妄想で物を盗まれたとか、頑固になってやり方が違うと介護者につらく当たる年配者が少なからずいる中、どのようにして穏やかさと感謝を手に入れたのか知りたいと思う。


(宮崎県・K.S/男性)