いっぱい話しまひょうなァ!


脳梗塞で倒れ右半身不随となり車椅子生活となった父ちゃん…
言語障害までも…
その日、とろみをつけたおじやをこっさえて、スプーンで口に運んでいるのだが…父ちゃんは口を一文字にぎゅっと結んだまま。
(何がいらんと?なんでやねん!)
無理やりに食べさせようとすると、左手で払いのける仕草をする。
(何事!父ちゃんの好物のひらめをはり込んで…骨をとりのぞき、細かく刻みおじやにしとりますのに…)
だんだんとその仕草に腹が立ってくるそんな時だった。
長男がやってきて父ちゃんに話しかけている。
「父ちゃん魚屋の安さんが間八の刺身を食べさせてくれとことづけてくれたがぁ」
(……)
「それと、また一緒に馬に行こうなと言ってましたがァ」
一方通行の会話だったが…
うん?その時だった。
父ちゃんの顔が少し歪んでいる
(父ちゃんが笑った。笑っているか…一文字口も少し開いているがァ!)
私は気付いた。
何しんも分かっておらずと。何しんも話しせず…ただ、おじやを口に運んでいたのだ。
いや、父ちゃんはようよう分かってなさったのだ
(父ちゃん、すまんことで!堪忍やで!)
それ以内、まだ、まだ通じない事はあったがいっぱいいっぱい話をするようになったのだ(一方通行の会話だったが)(
うっくっくっく…今日はテレビで競馬を観戦しなすってる。
時々、声を上げて左手を上げてなさる)
一文字の口もすっかり影を潜めてしまったのだ生きる気力、生きる活力ができ出てきている
3ヶ月が過ぎ気づくとゆっくりゆっくりだが言葉を発するようになっていた
とうちゃんには、1番の効能ですなぁ
これからも、いっぱい、いっぱい話をしましょうなァ、それ、馬にも行きまひょうなァ…


(京都府・T.S/70代・女性)