誠を尽くせば誠を引き出せない


「同類相求む」「類は友を呼ぶ」など、「似た者同士がお互いにひきつけ合って集まるものだ」という意味のことわざはいくつもあります。本当に不思議なくらい、人間の世界は同類の人たちが集まり やすいものです。

これは決して偶然ではありません。人間が本来持っている性質ともいうべきものです。感情、情緒、思想、信仰といった精神作用は、お互いに感応し合います。似た感情、情緒などを持つ者同士が感応し合うことによって、類は友を呼ぶのです。

精神作用が感応するということは、慈悲の心を持ち、誠を尽くして接すれば、相手からも誠の心を引き出せるということを表しています。英語のエデュケート(教育する)の語源となったラテン語には、「能力を引き出す」という意味があります。誠の心をもって相手から誠の心を引き出すのは、真の教育であるといえるのです。

最高の仕事をするためには、高度な学問や知識、財力、権力、社会的地位があればよいというわけではありません。それらが少なかったとしても、誠を尽くして仕事に取り組めば、よい知恵が浮かび、素晴らしい働きができるようになります。すると周囲の仲間や取引先からも誠の心が引き出され、力を合わせてより大きな仕事に取り組めるでしょう。


出典:「三方よし」の人間学-廣池千九郎の教え105選