おじいさんの笑顔


母のお母さんである、私のおじいさんが「脳梗塞」になって倒れた。左半身不随になってしまった。85歳の頃だ。おばあさんを先になくし、一人暮らしだったため、一時的に家のマンションで預かることになった。階段もなく、車椅子でも暮らせるマンションの方が良いと母が考えた。最後の親孝行のつもりだったそうだ。
おじいさんはトイレもゆっくり2時間おきに行った。失敗したくなかったのだろう。右利きだったため、食事も右手だけでゆっくり食べた。入院する2ヶ月ほど前からは、ほぼ寝たきりとなった。尿は自分で取り、私が母がトイレに捨てていた。おじいさんは「悪いねぇ。申し訳ない。ありがとう」とよく言っていた。
とうとう食事が1口も食べられなくなってしまい、入院した市民病院まで歩いて5分なので、私と母は毎日お見舞いに行った。おじいさんは小柄で痩せていて、体重も50キログラム以下だった。穏やかで優しい性格。日常生活をほんの少しお手伝いしたリクライニング式のベッドで、よくテレビを見ていた。目を閉じていて、聞いているのか、寝ているのか、静かに過ごしていた。
私が母がいつも一緒にいたため、おじいさんはニコニコ笑っていたら、一人暮らしじゃ、笑うこともないだろう。おじいさんに笑顔でいてもらえたのが1番嬉しかった。思い切って一緒に暮らして、ほんの短い間だったが、介護させてもらえて本当によかった。
仏様のように穏やかな顔をして、86歳で亡くなった。