利己心を乗り越える


関わるすべての人に対して、深い思いやりの心を持って接することが大切です。そして、その人たちに柔らかい表情で温かい言葉をかけ、親切を尽くしていくのです。

会社の上司に好ましくない行いをする人がいたとします。通常はその人にへつらうか、反抗するかのどちらかになるでしょう。

しかし、真に道徳的な生き方を志すなら、自分の利益や感情にとらわれることなく、ただ純粋にその人の行く末を案じます。そして、その人が精神的に救われることを願い、柔らかく、優しく接します。そうするうちに、こちらの誠意に相手が感服し、生き方を改めるようになることもあるのではないでしょうか。商売をする人は、いつも愛想がよく、腰が低く、お客から好意を持たれるような態度を心がけています。しかし、実際には「儲けたい」という利己心を動機として、商売繁盛の手段としてそうしている場合も多いのではないでしょうか。

自分の利益にとらわれることなく、お客の心を救い、幸福になってもらいたいという深い思いやりの心で接するようにします。そうして手厚くおもてなしをしながら、よい品物をそろえ、適正価格で提供するようにするのです。こうした心づかいを続けていくうちに、お客の数もしだいに増えていくに違いありません。


出典:「三方よし」の人間学-廣池千九郎の教え105選