天命に従って全力を尽くす


「人事を尽くして天命を待つ」という言葉をよく耳にします。学力、知力、財力、権力など、自分の持つすべての力を尽くし、結果については天に任せるという意味です。

結果の良し悪しにかかわらず全力を尽くすのは、たいへん潔い姿勢だといえます。しかしそこには、「全力を尽くしたのだから結果はどうなっても仕方がない」というあきらめの気持ちも含まれているのではないでしょうか。また、どういう目的に対して全力を尽くすのかという視点が、この言葉には含まれていません。

順序を変えて、次のような考え方をしてみてはいかがでしょう。 すなわち、「天命に従って全力を尽くす」のです。与えられた場や機会を自分の天命と受け止めたうえで、それを最大の目標に据えて、あらゆる手立てを尽くして実現を目指すということです。

人それぞれ人生を歩んでいくうえで、天から与えられた使命というものがあります。利己心にとらわれず、無心の状態で、その使命の実現のために全力を注ぎます。また、目的遂行の過程において、すべての人を慈しみ育てようとする、低い、優しい、温かい心を持って取り組んでいくのです。

天命に従いながら道徳的な生き方を貫き、一つひとつのことに全力であたれば、品性は向上し、目標も成就することでしょう。


出典:「三方よし」の人間学-廣池千九郎の教え105選