経済力のバリエーションを活かすとき


高齢格差には、実は経済力が大きく関係します。定年退職とともに定収入がなくなるという人はたくさんいます。そのときに、個人的年金や国民年金、厚生年金などの金銭的収入がその人を助けてくれます。もちろん、不動産や株、インゴットのゴールドバーなどで富を蓄積している人もいます。

一方でこういう富の蓄積ができないまま高齢期を迎える人も、たくさんいます。その人たちは、「あの人たちはいいわね、あんな高級な介護付きマンションには入れて。うちはずっとこのやすいマンション暮らしかしら」などという、ちょっとため息交じりの会話を交わしたりもします。

でも、ちょっと待ってください。金銭的収入だけが経済力でしょうか。この頃、私はそうではないことにはっきりと気づくようになりました。

私の近隣には花作りが非常に上手な80代の女性、大岩さんがいます。彼女は持ち家で自分の庭があるので、そこで楽しみで花や野菜を色々作っているのですが、ときどき、「たくさんあるから、おすそ分け」と言いながら、季節の花や野菜を分けてくれます。私にとっては、仕事に忙殺されて買い物に行く時間も足りないというような日々に彼女が届けてくれる花や野菜が、なんとうれしいことでしょうか。

このような有形のものだけとは限りません。情報だって立派な経済力です。情報貧乏と情報リッチはちゃんといるわけですから。

どんな方法をとったらこの貴重な本が手に入るとか、どこに行けばどんなイベントがあり、どこにどんな名医がいるのかというように、私たちの今の社会はまさに1980年にアルヴィン・トフラーが予言したような「第三の波」、情報化社会のまっただ中にいます。情報の大小がその人の財力の大小になっているわけです。

病気をしたときに、どの病院が一番きちんと対応しますさてくれるか。薬を飲むときに、どの薬は効いて、どれは効かないのか。もちろんそれぞれの分野にファイナンシャルプランナーや薬剤師などがいるわけですが、自分の身近な友人のネットワークの中でたくさんの情報が飛び交えば、これほど簡単で確かなことはありません。これまた若いときから貯えている財力です。

有名な「アリとキリギリス」の話があります。アリはせっせと働き、キリギリスは遊んでばかりいたので、冬になったら食べ物がなくなってしまうというわけですがらどうやら高齢者は「アリギリス」があっているような気がします。一生懸命働き、お金や情報を蓄えるとき。そして、仕事は少し暇になったけれど、様々な自分の持っている能力を使って、たくさんの上質な友達や人脈を作るとき。そんなことを折々の生活の中で緩急自在に交ぜながらやっていると、高齢期の金銭的経済力も含めて高齢力は心配がないということになるでしょう。

楽しく年を取っていくためには、こんな財力的な高齢力もやっぱり見逃せない大きな項目です。


出典:佐藤綾子著「介護も高齢もこわくない」