「依存欲求」には世代格差がある


私たちの持っている欲求に「依存欲求」があります。誰かに頼りたいという欲求です。

赤ちゃんの時に依存欲求が強いのは当たり前です。お母さんがいないとご飯を食べることも、どこかの場所に移動することもできないからです。青年期は依存欲求どころか、「無駄な口出しをしないでほっといてよ。何だってできるから」となるわけです。

ところが、高齢化に伴い、次第に自分のできることが減ってきます。これからの人生の時間に対する不安、行動範囲の縮小、人間関係の縮小、好奇心の縮小などの高齢者独特の心理的特徴により、だんだん、誰かに助けてもらわないと困ると感じるようになります(図1)。この感情が依存欲求です。依存欲求があっても、実際には努力して自分で行動して、「依存行動」にまでいかない人もいます。

でも、中には、「どこかに行くのにいちいちついてきてほしい」というような依存行動に移行する人もいます。

赤ちゃんの時に大きかった依存欲求は、高齢期で再び大きくなる。そのことに気づいて「ああ、頼ってもらえてよかったな」と割り切って高齢者を助けてあげる社会にしましょう。

今まで散々努力してきた人たちが、自分たちが辛く扱われることを予感して、「ボケるが勝ちですよね」などと言うのは、実は本当に罰当たりな社会になったということです。

「ボケないで、なるべく人に依存せず自分でやっていこう」と本人は頑張ること。周りは依存欲求が高齢者から発信されたら「できることをしてあげよう」と思うこと。これが本当の明るい未来の人間関係でしょう。

依存欲求には世代格差があって当たり前。高齢者が頼ったからといって、「面倒くさい」などと言うなかれ。高齢者がいなかったら、あなたは生まれなかったのです。


出典:佐藤綾子著「介護も高齢もこわくない」