父から息子への手紙


同じサラリーマンの道を歩いていた父が、結婚式の前日に私に手渡してくれた手紙に書かれた言葉を信じて今日まで、何度かの夫婦の危機を乗り越えて生活を維持していきました。
父は私が六歳の時、母と離婚し、男手ひとるで私を育ててくれましたが、その父が夫婦円満を願って書いてくれた文面には、自己反省の意味を含めて、それだけ意味のあるものでした。その内容を紹介します。
お父さんはサラリーマンという仕事を続け、家庭と言うものをおろそかにしてしまったから言うけど、家庭を守ると言う事は、大変な仕事なんだよ。これから結婚する前にお父さんが考える幸福な家庭を作る方法を書いておくから、よく考えておくれ。
まず第一は、嫁の言うことによく耳を傾けることだよ。善し悪しを評価したり、批判したり、言い争ったりせず、本当に心から耳を傾けることだよ。それが嫁に対する最高の敬意を現す方法なんだから。収入があることで何か大きなものを持っている気になる時があるかもしれないが、その時こそ謙虚な気持ちで嫁の意見を聞きなさい。
第二は素直な気持ちを持って、隠し事をせず話し合うことだよ。嫁もお前も2人も外で働いていれば、イライラすることがたくさんあると思うよ。そんな時こそ2人でよく話し合う時だよ。相談すれば嫁のほうも親密さを感じるものなんだから。隠し事は夫婦の溝を大きくするだけだよ。相談すればどんな大きな問題も2人で協力して解決していく方法が見つかるかもだよ。
三つ目は、忠節を守り信頼し合うことだよ。夫婦の間では疑いや競争心を持ったりせず、自分だけの権利を主張したりしないことだよ。
嫁と競争しても、嫁を疑った疑っても、夫婦の間にも家庭の中にも何の役もないからね。
四つ目は同じ経験もを分かち合うことだよ。そうすることにより思い出が積み重なり夫婦はより緊密になるものだから。子供が生まれたから、子供を中心にして、思い出をたくさん作ることも大切なことだよ。子供は夫婦の絆なんだから。
五つ目は、親切さと優しさを持つことだよ。結婚してしまえば大抵の事は許されると油断し、親切や優しさを表すことが照れくさいものだと思うこともあると思うが、親切さと優しさは愛を育む温かい環境を作りだす子ものなんだから。
結婚に失敗した私が言うことなんだから軽く考えないで、時間をかけて、夫婦生活のいろいろな面で、立ち止まって考えてください。
その他、いろいろ言いたい事は山ほどあるが、仕事で生きがいを見つけ、働き続けることも大切だと思うが、結婚して家庭を守る方が人間としては、最も大切だと、仕事を持つ父親としては、そう思うよ。どうか、1つでも心に留め、幸福な家庭を作ってくれることを最後に希望するからね。それで親として安心できるのだからね。親孝行と言うのは幸福な家庭生活を持ってくれることだということを忘れないようにね。
父は自分の犯した失敗を綴り、息子の私は、自分の犯した失敗を繰り返してほしくない人の思いで書いてくれたものだと思いましたが、結婚式が明日という時に、正直言って実感としてわかりませんでした。しかし、結婚生活を続けていくにつれ、特に、厳しい競争社会で不規則な生活を送らざるを得ない状況で、妻との会話を持つ機会も薄れがちの生活では、何度も夫婦間の危機を迎えることがありました。そんな時、いつも父が書いて渡してくれた父の手紙を思い出し、立ち止まって考えました。そうすることにより、父が何よりも大切だと考えていた夫婦生活も家庭と言うものをものも壊さずに今日まで来られました。この言葉を息子や娘が結婚したときに、私も渡しました。私も父と同じように息子や娘の幸せを願っていましたから。


(愛知県・K.A/70代・男性)