統合して判断する力は高齢期のギフト


Adaptive unconscious(適応的無意識)」という面白い言葉があります。とっさの出来事に対して、その出来事にうまく立ち向かっていくように、人は視覚からだけで1100万要素の情報をキャッチし、そのうち40要素を脳で判断するという、アメリカのT・ウィルソンの研究発表です。

このとっさの判断力は若者もたくさん持っています。例えば、向こうから車が来た。とっさにどっちによけたら助かるのかな。こんなときに適応的無意識が有効に働きます。

高齢の場合、今までの人生でたくさんの人に会っているので、実はこれが誰か違う人に会ったときの適応的無意識として正確な判断をするときに有利です。

長年の蓄積で過去の自分の経験値のフィルターにかけて、一瞬、目の前にいる人が善い人なのか悪い人なのか、正直なのか嘘つきなのかと統合して判断していくわけです。人物判断に関して、経験を統合して判断する力は、高齢期のギフトだともいえます。

それなのに、振り込め詐欺やオレオレ詐欺に高齢者が引っかかってしまうのも一面の事実です。それは、やはり高齢者自身の判断力に対する自信のなさとも関連すると思われます。

とっさの出来事でアッとあわててしまい、落ち着いて考えたら、息子が今、会社の前まで300万円持ってきてくれと言うはずないと気づくわけですが、とっさに自分の判断力を統合して使うことを忘れて、つい相手の言いなりになってしまう。そこでオレオレ詐欺が発生するわけです。

これは高齢者自身にも大いに責任があります。走ったり、力競争では負けるけれど、人間を統合的に判断する力は充分にあるのだと、もう一度しっかりと思い出してほしいところです。そして、まがい物のストロークが相手から降ってきたら、あちこち確認電話をするなどできる限りの手を尽くして、それが本当かどうかを判断していったらいいのです。


出典:佐藤綾子著「介護も高齢もこわくない」