「傾聴力」という名の忍耐力は社会の財産


電車の中でちょっとぶつかったからといって喧嘩をしている若者同士の話を聞くと、どっちも相手の言うことなど一切聞いていません。

「バカとは何だ」、「おまえこそバカだ」というわけで、どんどん罵りがエスカレートし、両方で同時にしゃべっているので、互いの話を聞いているどころではありません。

夫婦喧嘩だった似たようなものでしょう。そこからいい解決など生まれるわけがありません。

そこに必要なのが「傾聴力」です。中でも「積極的傾聴技法(active listening)」というスキルは本当に必要です。

(佐藤綾子『「察しのいい人」と言われる人はみんな、「傾聴力」をもっている』講談社+α新書、2013)

その第1は、自分の喜怒哀楽や、「忙しすぎる」、「つまらない」、「イライラする」などの、心理学で「否定的感情」と呼ばれるネガティブな気持ちをコントロールして相手の話を聞く力です。 

第2は、相手の感情に寄り添って話を聞く力。

第3は、相手の話をよく聞いて、的確な質問をする力です。この傾聴力は、練習や経験で磨かれます。

いろいろな人の話を聞いていく中で、どういう聞き方がいいのか自然にわかっていくからです。

さらに、高齢者の場合は、時間的ゆとりが生まれている人も多く、あたふたと人の話を半分聞いて、「ああせえ」、「こうせえ」、と言わず、最後まで聞いてくれるという素晴らしい美徳があります。

こんな傾聴力という名前の忍耐力を共につけてきたのがまさに人間の歩みの財産と呼ぶべきもので、その人の人生の宝物です。

こんな傾聴力を持った人が1人、2人、3人、そしてたくさん社会の中にいることが社会全体の財産になります。

トゲトゲと自分の主張ばかりするのではなく、じっくり人の話を聞いて、適切な質問をしてあげる。これぞまさに高齢者の才能であり特権です。


出典:佐藤綾子先生コラム