編集部:前回は、注意が必要な4つの怒りについて教えていただきました。その怒りをコントロールするための良い方法はあるのでしょうか?
森:アンガーマネジメントでは、『衝動のコントロール』『思考のコントロール』『行動のコントロール』の3つの対処法をあります。
イラッとしたときに最もやってはいけないことは衝動的な“反射”です。いわゆる“売り言葉に買い言葉”やすぐに手を出してしまうといったことです。
そのために「6秒ルール」があります。諸説ありますが、怒りのピークは6秒ぐらいと言われています。アドレナリンの分泌が落ち着くまで、または脈拍が上がって落ち着くまでの時間の目安です。
この6秒ルールは怒りを我慢するではなく、イラッとした時にひと呼吸おいて待つことで、理性的な反応ができるようになる感覚を身につけるトレーニングです。
具体的な方法としては、カチンと来た時6秒待つために、「大丈夫、大丈夫」など自分を落ち着かせる言葉をかけたり、怒りをスケールテクニックを用いて点数化したりします。これは、マックスを人生最大の怒りとして10点、それに対して今の怒りが何点かを考えるという方法です。
例えばホームで人とぶつかった、上司に注意された……怒りは自分の価値観とのズレから生じるもので、自分にとっては大切なことです。
ですからこうした出来事も点数化すると10点満点中8点など高い点をつけてしまいます。けれども人生最大の怒りは相手を殺して自分も刑務所に入ってもいいくらいの激しい感情だとすると、「だったら5点かな?いや3点か…」と冷静に怒りの感情レベルを測ることができるようになります。
そして、トレーニングを続けることで、次第に低いレベルに収れんされて、カチンと来ても「大したことないや」と思えるようになるのです。怒りは怒っているかいないかの白黒ではなく、幅の広い感情だと知ることが重要です。
6秒ルールを続けてみると、イラッとしたことに気づくもう一人の自分ができて、次第に6秒待つまでもなくなってきます。「あれ?最近、ひどく怒ってないかも?」と思えるようになるかもしれません。
編集部:とは言え、「あ~怒っちゃった…」と後悔することもあると思います。そういうときの事後処理はどうすればいいですか?
森:ついやっちゃった…というときでも、修復はいくらでも可能ですし、時間が経っても有効です。
例えば、子どもや部下に対して、ひどい怒り方をしてしまったら、少し時間が経ってからでも「さっきはすまなかったね。ちょっとイライラしててさ」「だけど、言いたかったのはこういうことなんだよ」と一言素直に謝ったり、自分の思いを言葉にすることがとても大切です。意地になって本当に伝えたかったことを相手に伝えないと、それはしこりになってずっと自分にも相手にも残ってしまいます。
編集部:「ストレスレジリエンス」も研修で取り入れておられますが、ストレスに強い人と弱い人の違いは何だと思われますか?
森:まずストレスレジリエンスの高い人は、自己効力感-やれば出来る-という気持ちを強く持っていて、気分転換がうまい人です。そして、「感謝体質」を持っている人ですね。こういう人は、周りに相談できる友人もいますし、何かあっても問題を抱え込まずに、前に進むことができるのでストレスに強いのだと思います。
一方、何事に対してもネガティブな人-自分はダメな人間だと思い込む自己卑下が強い-とストレスレジリエンスは低くなります。
編集部:それでは、ガーンと落ち込んだ時にはどのようにすればよいのでしょうか?
森:2ステップあります。ステップ1は「底打ち」です。自分がガーンと落ち込んでいる状態に気づいて、なるべく早く抜け出すために気分転換をします。そして、ステップ2で「立ち直り」へ進みます。
「底打ち」で重要なのは、落ち込んだ時に感情の渦からうまく離れる状況を作り出すことです。ストレスレジリエンスの低い人は、感情が洗濯機の渦のように巻いている中に入り込んでいて、そこからなかなか出ることができません。さらに危険なケースとしては、渦の中に自分が落ち込んでいることにすら気づかず、部屋の隅で膝を抱え込んでうずくまっているような状態です。そのまま放っておくと鬱状態に陥ってしまうこともあります。
この「底打ち」をする簡単で有効な方法としては、呼吸法とラベリングがあります。ラベリングとは、今の自分がどういう感情にあるのか-「すごく不安」「怖い」「自信がない」など-を敢えて言葉にする方法で、自分抱えている感情に気づくことにつながり、ぐるぐるの渦の中から抜け出すために役立ちます。
そして、渦から抜け出たら「気分転換」をします。早歩きの散歩、スポーツ、掃除に夢中になる、読書に没頭する、カラオケで絶唱する、楽器の演奏など、自分が無我夢中になれることならどんなことでも有効です。ただし、深酒、ギャンブル、爆食い、ドラッグ、暴力的な戦いなどは、後悔が伴うためNGですね。
編集部:自分の今の感情にきちんと目を向けるのがポイントのようですね。
森:そうですね。いきなり気分転換するのは難しいので、まずは感情の整理が必要です。
そして「底打ち」ができたらステップ2で「立ち直り」をします。立ち直るときには、「ポジティブ感情」を持つことが重要です。そのために、日ごろから「自分の強みは何か?」を考えておく、「やれば絶対にできる」と信じられる手の届く目標を設定し取り組み、達成感を感じることも大切です。そして、親しい人に気持ちを吐露する、友人や同期の頑張りややり方を参考にし、目標に向かっていくパワーをもらうことも「立ち直り」にはとても役に立ちます。
また、「感謝や喜び、うれしいといった感情を強制的に思い起こすことでポジティブ感情が高まる」というアメリカの心理学者マーティン・セリグマン博士の研究結果もあります。ポジティブ感情をもつことは、前を向く立ち直るステップでとても重要です。
編集部:ポジティブ感情を鍛えるための具体的な方法も教えていただけますか?
森:「3 Good Things」-3つの良いことトレーニングというものがあるのでご紹介しましょう。
これは、寝る前に、その日一日あったことを振り返って、「うれしかったこと」「感謝すること」「楽しかったこと」を3つ思い出すというとても簡単な方法です。書き出してもいいですし、思い起こすだけでも大丈夫です。
内容は、「今日は涼しくて良かったな~」「友達に○○したら‘ありがとう’って言われた」など本当に些細なことでもいいのです。
1週間続けるとポジティブ感情が長期的に持続すると言われています。前向きに物事を捉えられるように脳にクセづけが行われるのだと思います。是非やってみてください。
編集部:今後ますます感情コントロールやストレスレジリエンス強化のニーズは高まると思いますが、最後に、森さんがこれから力を入れていきたいと思っていらっしゃることをお聞かせください。
森:今、企業は3つの大きな問題に遭遇しています。①早期退職者の問題 ②叱ることの難しさ ③職場での多様性 です。
これらの課題を解決するために、やはりアンガーマネジメントと叱り方のトレーニング、そして、多様な価値観の中でのコミュンケーション-どうすれば相手に正しく伝えることができるのか-といったトレーニングは重要で、今後さらに強化していきたいと思っています。
また、怒りは「高いところから低いところへ流れる」という性質があります。強い者から弱い者へ流れていくのです。管理者から一般社員へ、親から子どもへ、子どもはさらに弱い子へ、そしていじめられた子は動物へ…高齢者や浮浪者への虐待なども社会問題となっています。怒りの連鎖を断ち切って、この流れを食い止めないといけないと思っています。
アンガーマネジメントができるということは、何よりも自分自身が穏やかになり、大切な人生をイライラして過ごすことが少なくなります。そういう人が増えることが、社会全体の怒りの連鎖を断って不幸な事故や事件がなくなることにつながると信じて、これからも活動を続けていきたいと思います。
森 みや子(もり みやこ) MIYAKO MORI
モリプランニング 代表
東京四谷生まれ。株式会社東京放送TBS954キャスターを経て、モリプランニングとして独立。民間企業、官公庁の研修・講演講師、人材育成コンサルタントとしての仕事に従事。新入社員から管理職まで幅広く、多岐にわたるテーマでの研修や講演を実施。職場環境向上、面談、アセスメントの他、スピーチ、プレゼンテーションのパーソナルレッスンを受託。講師歴は25年。年間150日以上登壇。日本アンガーマネジメント協会認定シニアファシリテーター、レジリエンス認定講師
URL http://www.morimiyako.com/
編集:家族をつなぐきずな倶楽部 編集部
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編集部:森さんは人材コンサルタントをされていますが、どこで、どのような人たちに対して研修やセミナーを行うことが多いのですか?
森:企業や組織に向けた研修が中心ですが、その対象は新人研修からミドル層やマネジメント層まで幅広く行っています。企業の人事部からの依頼が多いのですが、様々な業種や職種に対応しています。一般の方々へは公開講座でお話しする機会もあります。
編集部:「アンガーマネジメント」や「ストレスレジリエンス」をメニューに取り入れるようになったのはいつ頃からでしょうか?
森:そうですね。依頼をいただくと、まず現場で抱えている課題のヒアリングを行うのですが、この5年位の間に早期離職や退職といった問題を抱えているケースが明らかに多くなりました。新人、ミドル層、マネジメント層と階層に関係なく増えています。また人間関係とメンタル疾患の問題を抱えている職場も非常に多くなっています。
組織は、生産性・効率性を高めることも重要なため、研修を企画する側はすぐに見える結果を求めます。ですから研修プログラムを企画する際、具体的な目標設定の仕方、パフォーマンスアップ、モチベーションアップといった内容のご要望が多いのですが、離職や退職、そして心の問題に対して、従来のスキルの習得だけでは立ち行かなくなったという現状です。
ですから、すぐに役立つスキルの習得に加えて、感情トレーニングを組み合わせることが多いです。気持ちが落ち込んだり病気になってからでは冷静に自分と向き合って考えることができなくなりますから、人事の方々も、平常な心での感情コントロールの習得が大切だということを理解して下さるようになったと思っています。
編集部:そもそも、森さんが実際に企業で働く人たちと接する中で、肌で感じられる
問題や変化はありますか?
森:「価値観の多様化」ですね。これはひと昔前にはなかった大きな変化で、企業に色々な影響を与えていると感じます。様々な思考、雇用形態、成育環境、年齢など職場での価値観は多岐に及び複雑で、なかなか他者の価値観を理解できない、受け入れにくいということが起こっています。
例えば、新入社員をはじめとする若者は小さい頃に叱られた経験がないので、社会人になって職場でミスをして初めて叱られると、もうどうしていいかわからなくなる。一方で、根性論で鍛えられたリーダーや上司はそういう若い人とどう向き合っていいかわからない。上司も部下も双方ともに落ち込みを抱えたまま仕事をし、ひどくなるとメンタル面に影響が及んで、ある日突然出社できなくなる……そんなことも多々あります。
編集部:価値観の多様化は怒りとも関係していますか?
森:アンガーマネジメントでは「怒り」の原因は2つあると考えています。その一つが「価値観の多様化」です。私たちは、自分が信じている「○○すべき」と思っていることが目の前で裏切られたときに、イラッとしたり、怒りを発生します。「べき」はその人が持っている価値観で、その人にとっては非常に大切なこと。この価値観の多様化が進むということは、様々な「べき」を受け入れられない人を確実に増やし、結果衝突も増えます。
二つめは、「便利な世の中になりすぎている」ということです。携帯電話でいつでもつながり、24時間コンビニで買い物ができ、時間通りに動く交通機関のある生活……これが当たり前になってしまったがために、自分にとって当たり前のことができなくなると、途端にイラッとくるわけです。ひと昔前なら我慢できていたことができなくなっていますね。
編集部:喜怒哀楽の一つでもある怒りをどのように扱うと良いのでしょうか?
森:よく、アンガーマネジメントは怒ってはいけないとか、怒りをなくすトレーニングと思われがちですが、それは誤解です。
おっしゃる通り、怒りは喜怒哀楽の一つで大切な感情です。決してなくならないですし、なくしてもいけません。イラッとくることやカチンとくることは、日常生活をしていればあって当たり前でそれ自体が問題ということではないのです。
では、何が大事かというと、「怒りの感情に振り回されない」「怒りで後悔しない」ことです。「あんな怒り方しなければよかった…」「ちゃんとあのとき怒っておけばよかった…」といった後悔をしないことがポイントです。
そのために、怒っているかいないかを問題にするのではなく、怒りの構造をきちんと知って、自分がどういう怒りを持ちやすいのか、怒ることと怒る必要のないことを区別すること、自分のタイプを知ることが重要なのです。同時に、相手の怒りのタイプを知ることも大切です。同じ怒られるにしても、「あの人は、ああいう怒り方をするタイプの人なのね」とわかっていれば適度な耐性が持てるので、怒られ強くなります。
編集部:それでは、その怒りのタイプを教えて下さい。
森:問題となる怒りは4つあります。
それは、1.強度が強い 2.持続性がある 3.頻度が高い 4.攻撃性がある 怒りです。
1.の「強度が強い」はいわゆる瞬間湯沸かし器型でキレやすいタイプです。突然怒り出すので周りも戸惑います。
2.の「持続性」は、根に持つタイプです。思い出しては怒るので、いつまでもその怒りに振り回されます。極端な例では、民族間の争いや宗教戦争など世代を超える怒りもあります。怒りは時間が経つと恨みなど違う感情に成長してしまいます。ストーカーのように病理的な感情になることもあるので要注意です。
3.の「頻度が高い」は、とにかく色々なことが気になるタイプです。電車内での他人のマナー違反、職場での同僚のデスクの散乱などを見ただけでイライラする。こういう人は職場でもしょっちゅうイライラするので場の雰囲気も悪くしネガティブオーラを撒き散らしていることがあります。
4.の「攻撃性」はその矛先が、他人、自分、モノと3つに向きます。他人に暴言を吐く、真面目すぎて自分を責める、手当たり次第モノを投げるなどモノに当たる、そういったことが攻撃性です。
編集部:この4つの怒りを持っている人は、アンガーマネジメントのトレーニングで変われるのですか?
森:はい、変われます。トレーニングをしても怒りはなくならないですし、決して仙人のような性格になるわけではありませんが、怒りに振り回されてセルフコントロールできなくなったり、後悔するような怒り方は少なくなります。
そもそも、怒りで失うモノって人間関係、信頼、大事な友人、家族の絆かもしれないし、管理職ならば冷静な判断を下せなくなるとか、あるいは健康を失うこともありますね。高血圧や心疾患・心筋梗塞などは怒りと密接な関係があると言われています。さらに、今問題となっているロードレイジといった交通トラブルでの激しい怒りから、事故や争いにつながり命を失うこともあります。
問題となる4つの怒りを知ることは、自分の人生を後悔しない、そして周りの人を巻き込んで不幸にしないためにも、とても大切なことなのです。
後篇に続く
森 みや子(もり みやこ) MIYAKO MORI
モリプランニング 代表
東京四谷生まれ。株式会社東京放送TBS954キャスターを経て、モリプランニングとして独立。民間企業、官公庁の研修・講演講師、人材育成コンサルタントとしての仕事に従事。新入社員から管理職まで幅広く、多岐にわたるテーマでの研修や講演を実施。職場環境向上、面談、アセスメントの他、スピーチ、プレゼンテーションのパーソナルレッスンを受託。講師歴は25年。年間150日以上登壇。日本アンガーマネジメント協会認定シニアファシリテーター、レジリエンス認定講師
URL http://www.morimiyako.com/
編集:家族をつなぐきずな倶楽部 編集部
]]>編集部:今は誰でもSNSで発信するようになり、ロボットがホテルの受付をする時代です。パフォーマンスを取り巻く環境が随分状況が変わっていると思いますが、パフォーマンス学の意義はどのように変化していますか?
佐藤:いいことを聞いてくれますね。その通りで、時代が変われば自己表現も変わらなくてはいけません。
1980年にパフォーマンス学を日本に紹介したときは、グローバル化を見据えてのことでした。国際化する社会において日本人はなんて自己表現が下手なのだろうという課題意識を強く持っていました。
でも正直言って、その時点でこれほどの高齢化とAI化は予測していませんでした。これらを社会ニーズとして捉えて取り組み始めたのは10年前からです。
編集部:具体的にはどのような取り組みをされていますか?
佐藤:一つには、現在、認知症を表情から読み取るAI開発に参画しています。
高齢化に関しては、介護されるお年寄りの生活環境や質などがどんどん多様化して様々な問題が顕在していますが、最近では介護独身といって親を介護していて婚期が過ぎてしまう人や介護離職といった介護する側の問題も大きくなっています。
「高齢化」の様々な問題の根本解決には、介護の期間を減らしたり薬代を少なくするにはどうしたらいいかを考えなくてはいけません。そのために、認知症になる前に、介護する側が早い段階で表情から認知症の兆しを読み取ることが出来ることはとても有効な手段です。その着眼からAI開発にパフォーマンス学を活用した取り組みを行っています。
また、別の取り組みでは、介護する側のパフォーマンス(しゃべり方や表情など)一つで、介護される側が元気になれるということで、パフォーマンス学を活かしています。
高齢心理学独特の特徴として、介護される人は依存欲求がどんどん増していきます。モノが取れないから取って欲しい、話を聴いてもらいたい、、、と、介護してくれる子どもやお嫁さんへの依存欲求が増えるわけです。それが重なるとだんだん介護者にも負担が重なってきます。実際介護の現場では、人も時間も限られています。そうすると、どういうやりとりをすれば効果的に時間を縮めながらかつ介護者を元気づけられるかという視点が必要になるのです。
編集部:介護する側は、前回お話したようなストレスマネジメントを行って、介護される側は介護者のパフォーマンスで元気にするということですね。
佐藤:「高齢者における笑いの効果の実験研究」を虎の門病院と組んで行いました。こちらは、日本医療学会の論文として掲載しています。
対象者は、ある都内の中学校に健康体操をしに来ているお年寄りで、実験に協力してくれる方を募ったら偶然全員女性で、平均年齢は75歳の11名でした。
実験期間を8日間設けて、そのうち2回、体育館に集まってもらいました。
-1回目(初日)は、お年寄りに1分間スピーチをしてもらって、その後私が笑い話をします(ラーフタイムという)。
-2回目(8日目)は、その逆で私が笑い話(ラーフタイム)をして、その後お年寄りに1分間スピーチをしてもらいます。
そして、2回とも、血中酸素濃度や血圧や体温、そして発話数などを測定して、8日間の実験前後で数値を比較をしたのです。
結果は見事でした。「表情筋」が動く秒数、「血流」、「血中酸素」濃度が増え、一方で「血圧」は下がりました。また、1分間の「発話ワード」数も優位性をもって増えました。そしてアンケートを回答してもらったところ、自分の「笑顔への自信」が高まったのです。
編集部:すごくわかりやすい笑いの効用ですね。
佐藤:みなさんこの話をすると、「いったいどんな笑い話を話したんですか?」と聞かれますが、お年寄りにはお年寄りが自分ゴトできる話題の提供です。若い女の子が箸が転んでもおかしいというのとは違います。
お年寄り自身が日常感じていて共感できるようなちょっとした失敗談や恥ずかしい思いなどを話せばゲラゲラ笑い転げて、セミナーの間も全く退屈なんかしませんでした。
さらに、話をする前に、「面白かったら遠慮しないで笑いましょう」「隣の人が笑っているくちゃくちの顔を見ておかしかったらもっと笑いましょうね」と声をかけておくのです。
そんな風に発信者の働きかけ次第で、受け手も笑って元気になれるのです。こうした笑いの効用は介護の現場にもどんどん取り入れていってほしいです。
編集部:では、加速するAI時代に対してはどういった視点が大切になりますか?
佐藤:AIができることはとてもたくさんありますよね。IBMのワトソンはジェネラルドクターよりも早く病名が言えるようになっていますし、ブロック塀の強度チェックはゴガンゴというAIロボットが塀の前に立つだけでできるのです。そして、ご存じのように2045年には単純労働の49%はAIに取って代わられると言われています。
ですが、AIにできない仕事があります。それは、目の前にいる人の不安を解消してあげることなのです。
人間関係作りには、3ステップありまして、①不特定性の解消 ② 不安の解消 ③ 安心の提供 です。
①はどこのだれかを識別するということで既にAIでできます。
でも、②と③ができるAIはまだありません。レイ・カーツワイルという最初にAI時代を予告したコンピューター研究者は、どこまで行ってもAIで不安を解消することはできないだろうと言っています。
編集部:心が弱っている人に接する際、弱っている人のパフォーマンス上の特徴――見た目でわかる表情や態度など――の知識を予め持っていると関わり方も変わるのではないかと思いますが、いかがですか?
佐藤:心が弱っている人を見分けるには、「姿勢」「アイコンタクト」そして「表情」の3つがポイントになります。
傾向として、人は心が弱っていると、
通常この3つが大きな特徴ですが、さらにひどくなると、「歩幅」が減ってトボトボ歩くといったパフォーマンスに現れたりもします。
編集部:どれもわかりやすいですね。一方で、この中で普段から心の健康のために心がけるといいことはありますか?
佐藤:それは「姿勢」を直すことですね。残念ながら表情を直すのは長年の癖がついていてなかなか容易ではありません。
先述した「高齢者における笑いの効果の実験研究」でも明らかなように、血中酸素の量が多い方が心には良いわけです。姿勢を良くして胸を開けた方が肺が広がってたくさん酸素が入ってきます。良い姿勢を心がけることをおすすめします。
編集部:今回いろいろなお話を伺いましたが、ストレス社会においては自ら関わるということ(Commitment)が大切ということが印象に残りました。
佐藤:そうです。人間は社会的動物だから誰かと組まないとできないことばかりですから、自分から関与していくことはとても大切です。AIができない不安の解消という意味でも、やはり社会全体として、関わる気持ちは全員が持っていないといけないのではないでしょうか。
そして、関与には「返報性(Reciprocity)」があります。関わった相手は、いつか自分に関わり返してくれるというものです。
幸いなことに、高齢化とAI化で私のやるべきことはますます増えています。しかしながら、私自身が今71歳ですから立派な高齢者です。当然のことながら、若い人と組まないと出来ないことや、若い人と組んだ方が効率がいいことがたくさん出てきています。
でも、かつての教え子や縁あって助けた人などは電話一本で私を助けに来てくれます。これまで人に関与してきて、いい方のツケが戻ってきているなぁ、と最近感じるようになりました。
返報性の観点でいえば、20代30代、もっと言えば10代のうちからでも自主的に関わっていってほしいですね。関わってきたことは最終的にきっと実を結びます。そして、それがストレス耐性(Hardiness)にもつながり、豊かな人生を歩むことにつながります。
佐藤 綾子(さとう あやこ) AYAKO SATO
ハリウッド大学院大学教授・日本大学藝術学部講師
日本大学校友会桜門社長会顧問
信州大学教育学部卒、ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科卒(MA)、上智大学大学院英米文学研究科卒(MA)、同博士課程修了、立正大学大学院心理学専攻、博士(パフォーマンス学・心理学)
パフォーマンス心理学の第一人者として、累計4万人のビジネスリーダーとエグゼクティブ、首相経験者含む54名の国会議員等のスピーチ指導。単著単行本191冊著作累計319万部。(2018年現在)
編集:家族をつなぐきずな倶楽部 編集部
]]>編集部:先生は39年も前に、海外でもまだ新しかったパフォーマンス学を学ばれています。当時全く新しい学問を研究しようと思われたいきさつをお聞かせいただけますでしょうか。
佐藤:上智大学の院生だった時、アメリカ演劇の評論を研究していたのですが、やがて舞台上のパフォーマンスよりもドラマティックな日常の自己表現を研究したいと思うようになりました。
しかし当時、日本にはそのような研究をしている大学はありませんでした。それで、ネットもない時代でしたから、フルブライト委員会のカタログを片っ端から調べたのです。そこで、丁度翌年にニューヨーク大学でパフォーマンス学の研究科が開講されることを知りました。
当時私は、上智大学の博士課程に在籍していて夫も子どももいました。ですが、子どもは転校させ、夫には離婚届を出して渡米しました。どうしても、舞台上ではない人間の「日常の自己表現」を科学的に研究したかったのです。アメリカで1979年に確立されたパフォーマンス学を、私はニューヨーク大学で11カ月で修士号を取って帰国し、翌年1980年日本に初めて紹介しました。
編集部:科学的に研究する、ということをとても重視されているのですね。
佐藤:「生身の人間が発信する自己表現」がパフォーマンスです。それをサイエンスとして研究することにずっと力を注いでいます。ですから、今でも年がら年中実験をして論文を書いています。
サイエンスとは、同じ条件下で実験を行った場合に、再現性があり検証可能でなくてはなりませ。例えば「人は見た目が9割」などと言いますが、サイエンスでなければ他の人がやったら9割が8割になってしまうかもしれないですよね。
私のオリジナルな実験データに「日本人の顔の表情」に関するものがあります。この実験データは私が世界一たくさん持っているもので、どこの筋肉がどう動いた時にどういう心理状態なのか、もっと言えばどういう性格でどういう育ちをしてきたか、までわかります。
現在、私はパフォーマンス学を4つのフィールド――ビジネス、教育、医療、政治――で展開していますが、例えば、選挙に立候補した人が有権者にどう見えるかを表情、声、姿勢まで含めて講座で学んで実践していただくものもあります。サイエンスによるエビデンスがあればこその結果を出しています。
編集部:現代のストレスには人間関係が大きく影響しています。人と人のコミュンケーションに大きく関わるパフォーマンスですが、パフォーマンス学ではストレスをどのように捉えますか?
佐藤:私たちは全員なんらかのストレスを受けています。でも、ストレスを考える際に、まずはストレスというものの仕組みを正しく理解しておく必要があります。
人の心に重しをかけるものは全てストレッサーと言いますが、たとえ均一のストレッサーがかかったとしても、その影響度は受け止め手の「資質」によって変わるということを知っておくことが重要です。
ラテン語で、良いストレスを「ユーストレス(eustress)」、悪いストレスを「ディストレス(destress)」と言います。
例えば、英語のスピーチ実験で「明日国際会議で発表しろ」と言われると、英語の得意な人はすごく張り切るけれども、英語の苦手な人が同じことを言われるたら眠れなくなるというものがあります。この場合、前者にとっては英語のスピーチが善玉ストレッサーとなりますが、後者にとっては悪玉ストレッサーです。同じストレッサーがかかっても、受け止め手の「資質」によって重荷になったり励みになったりするわけです。
それともう一つ、ストレスの寡少(少ない)もあります。
2015年に『スタンフォードのストレスを力にかえる教科書/ケニー・マクゴニガル著』が出版されました。この本の中では、ギャラップ調査でストレスの多い人と少ない人の寿命を比べたところ、ストレスのある人の方が長生きをしていたと書かれています。
「ストレス過剰(over stress)」と「ストレス寡少(under stress)」、どちらも過ぎるのはよくはないです。しかし、その量は何キログラムになるとダメで何キログラムまでなら大丈夫と一概に言えるものではなく、これも受け手の「資質」によって変わってくるのです。
編集部:それが、こちらの図(下図)にある、横軸が「ユーストレス」か「ディストレス」か、縦軸が「ストレス過剰」か「ストレス寡少」かの図になるわけですね。
佐藤:そうです。これはストレスマネジメントを考える際にベースとなるもので、私がパフォーマンス学の観点から考案したオリジナルの分類表です。
ストレスマネジメントを行うには、まずは自分の「資質」を知ることが大事です。
自分はどのくらい「ストレス耐性(Hardiness)」があるのか、自分がストレスに弱いのか強いのかを、この表で冷静に棚卸できることが望ましいですね。
出典:国際パフォーマンス研究所 佐藤綾子
編集部:既にストレスで弱っている人や、自分を客観的にみることがあまり得意でない人ができるストレスマネジメント法はありますか?
佐藤:心が病んでしまうと自分を冷静に見られなくなるので、先ほどの表を使って自分を俯瞰して棚卸することが難しくなります。そういう場合は、ストレス対処として「3つのC」を行います。
「3つのC」とは、①Challenge(挑戦) ②Control(統制) ③Commitment(関わり)。一般的には、これらの「3つのC」を高く持ち合わせる方がストレスを超えられるストレス耐性(Hardiness)が強いということになります。
まずは、この3つの資質を自分がどのくらい持っているかを知ることからはじめます。自分がふだん様々な場面でどのような行動や言葉に出るか、わからなければ周りの人に聞いてみてふだんの自分がどういうパフォーマンスをとっているか教えてもらいましょう。
編集部:3つのCを順に説明していただけますか。
佐藤:まず、Challengeですね。これは、何かを頼まれたときや目の前のコトに対して、「やりまっせ!」「やらせて下さい!」とチャレンジングな反応をとるか、逆に「できないかも・・・」「失敗したらどうしよう・・・」「○○さんとやるならいいけど・・・」などチャレンジから逃げるかです。
日ごろ自分がどちらが多いかを振り返ってみましょう。自分でわからなければふだんどういう反応をしているか、身近な人に聞いてみましょう。
次に、Control。自分でものごとを統制できない状態もストレスになります。例えば「(異動で)香港に飛ばされた」「上司に資料を作らされた」など、誰かに「された」「させられた」という言い方ばかりする人がいます。
一方で、同じ状況下でも「海外でも働いてみたかったし、今回の異動はいいチャンスだ」「みんながわかるようシンプルな資料を作ってみよう」といったように前向きに考え直すことが出来ると、自分で自分の状況をコントロールしているということになります。
そして、Commitment。これは様々な身の回りのコトを、「自分には関係ない」と思うか「自分にも関係ある」と思かということです。それによってストレスの感じ方や疲れ方が違ってきます。
例えば、家の前の雪かきを考えてみましょう。自分の家の前だけで済ませてお隣や近所のことはお構いなしという人は関与が低い人。
一方、お隣の所も大変だからちょっとやっておきましょう、とアクションを起こす人は関与が高い人。
関与すれば、これをきっかけでお隣さんと会話が生まれて関係性も良好になっていくわけです。PTAの会長やってくれない?と言われて、ただただ「できません」と突っぱねるのではなく、「会長は無理だけど会計ならできます」と言えばそれはこの案件に関与していることになり、人間関係も広がっていくでしょう。
私の経験上、コミットメントのスコアが低い人は人脈が小さいです。そして私流の言葉でいうと「ケチ」な人ですね。自分だけ良ければ良いと思って他人に何も与えない人になっていないか、ふだんの自分を振り返ってみて下さい。
編集部:この3つは、自分でも振り返りやすくて、周りの人に聞いてみることもできそうです。この3つは仮にスコアが低くても努力して高くするべきですか?
佐藤:べきかどうかはなんとも言えませんね。中には、私は放っておいて欲しいと言う人もいるでしょうから、一概に3つ全てが高くなくてはいけないというわけではありません。類まれな才能の持ち主や天才なら、コミットメントしなくても人は寄ってきてくれるかもしれません。
でも、ごくごく一般の人ならば3つのCは高い方がストレスマネジメントがしやすいですし、社会全体としても、3つのCが低い人は持ちあげた方がいいと言えるのではないでしょうか。
私のおこなっているパフォーマンス学は、表れている行動を変えることです。
3つのC――挑戦してみる、コントロールする、関与してみる――それを高めるための「動作」と「表情」と「言葉」を使い続けるように助言するのが、私の大事なミッションです。
後篇に続く
佐藤 綾子(さとう あやこ) AYAKO SATO
ハリウッド大学院大学教授・日本大学藝術学部講師
日本大学校友会桜門社長会顧問
信州大学教育学部卒、ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科卒(MA)、上智大学大学院英米文学研究科卒(MA)、同博士課程修了、立正大学大学院心理学専攻、博士(パフォーマンス学・心理学)
パフォーマンス心理学の第一人者として、累計4万人のビジネスリーダーとエグゼクティブ、首相経験者含む54名の国会議員等のスピーチ指導。単著単行本191冊著作累計319万部。(2018年現在)
編集:家族をつなぐきずな倶楽部 編集部
]]>現代社会はストレスとの闘いです。「こころを整える」ためにどうすればいいのか、各界の著名人をゲストに招いて家族をつなぐきずな倶楽部編集部がメンタル面の変化に着目しながら切り込んでいく「インタビュー」。
今回のゲストは、前編に引き続き株式会社夢相続 代表取締役・曽根恵子さん。
曽根さんが創り出した「相続コーディネート」は、感情面・経済面に配慮した「オーダーメイド相続」を提案。
後編では仕事へのやりがい、そして家族の在り方についてお伺いしました。
編集部:相続では、どのような悩みを持つ方が多いのでしょうか?
曽根:これまで14,000人以上の方からご相談をいただいています。スタート当時は相続になってからの相続税の節税対策のサポートが中心でした。でも、多くの方のご相談に対応するうちに、相続になる前に対策をしてもらう必要性を痛感して、生前対策の本を出版したのです。そのあたりから、相続後だけでなく生前で悩みを抱えている方が足を運ばれるようになりました。
編集部:今の仕事を続けていてよかったと感じることは?やりがいについて教えてください
曽根:弁護士や税理士は社会的な評価が高い仕事です。弁護士は法律の専門家で「争い」の代理をするのが仕事。税理士は税務の専門家で会計の申告が仕事で、いずれも後処理になりがちです。
私が現在手掛けている不動産と相続は、それぞれに前向きな提案ができることが弁護士、税理士など士業との違いで、魅力でもあります。一人ひとり状況が違うからこそドラマがあるし、だからこそ前向きな選択肢がご提案できるんです。
状況に合わせてお話を聞きながら、課題を整理し、提案する。
お客様と一緒に歩んでいくのが私たちの役目です。家族の未来への楽しみをサポートできる仕事だからこそ、やりがいを感じています。
編集部:未来への楽しみがあるその一方で、他人には言えない悩みや苦労を抱えている方と接する上で、ご自身のメンタル管理はどうされているのでしょうか?
曽根:仕事が楽しいのでストレスを感じることはあまりないですね。とはいえ、ご相談に来られるご家族が必ず円満というというわけではありません。
時には本音が言えなかったり、本気で家族同士がいがみ合っているケースもあるのが現実です。
中には歩み寄りがなく、溝が埋まらないまま絶縁をされてしまう方も……。
すごく残念なことですが、お客様の状況を理解し、冷静に一歩引いたところで見ていかなければと感じる部分はあります。
編集部:落ち込んだ気持ちを持ち上げたいとき、何かご自身で実践している方法はありますか?
曽根:良いことも悪いことも、私たちにとって全ての事例が学びです。その度に考えさせられますが、マイナスな状況でも現実を見ながら次に向かおうとする意識が何よりも大切。
ネガティブなことに引きずられて落ち込む必要はないので「感謝・感激・感動を引き出す原動力になろう」という社是を全員で共有して取り組んでいます。全てが学びになります。通常の仕事であれば売上を上げて終わってしまいますが、私たちの場合、お客様の事例を残しておくことが会社の財産になります。
その時の提案や成果を事例化して残すことで仕事の見える化となり、お客様にも提供でき、活用してもらうことで社会貢献に繋がると思っています。
編集部:今と昔、家族の繋がりについてどう思われますか?
曽根:私は相続コーディネートの仕事が25年、不動産業が35年になります。以前は「家」を守っていこうとする家族の在り方が当たり前の時代。しかし、今日では親との同居が減り、生まれ育った家にそのまま住む人や家業を継ぐ人も減っています。そのため、昔に比べて家族間の結びつきは薄くなったように感じられます。
家族関係や繋がりが希薄になるにつれ、財産に対する考え方も変わっていきました。法律も変わって、財産を家に残す形から相続人に分け合う形となったのですが、ご家族によっては財産の譲り合いができず、実の兄弟より自分の家族を優先するあまりに、「貰えるものは貰おう」という人も出てきました。
編集部:さまざまな方が相談に来られるかと思いますが、接し方で気を付けていることはありますか?
曽根:相談に来て頂く方のお話を伺うところから入りますので、こちらから高圧的な言葉をかけることはありません。お客様と同じ目線でお聞きしますので、本音を話して頂くようにしています。
ご家族が揃わない場合は、お一人ずつ話して頂く場合もあります。
しかし、当社では相続人全員に同じスタンスで対応しますので、一方の味方にならないようにしています。お話を聞きながらも公平な立場で現実的な解決策や案をすり合わせていくご提案をし、解決のサポートをしています。
編集部:相続問題で家族が対立をしてしまった場合、例えばどのような解決方法がありますか?
曽根:「お気持ちはよくわかります」と、まずは共感することから入ります。相続の場合、両者が対立しているということは、それぞれに言い分があるはず。どちらが正しいのかは第三者では決められないので、不安や不満、本音などを聞き出した上で現実的な選択肢をご提案していきます。
通常、家族間でトラブルが起きた場合は弁護士や家庭裁判所に頼るのが一般的な解決策です。ですが法律に頼ってしまうと、財産の分け方は決まっても「気持ち」までは救ってもらえないのが現実です。調停しても裁判しても「気持ち」が収まらず、むしろ相手への憎しみとなり絶縁になってしまうケースばかりです。
家族の相続の場合は法律ばかりに頼るのではなく、当事者たちの気持ちを救いつつ、家族のきずなも保ってもらえるようなサポートが必要だと痛感しています。
編集部:問題に直面している方は心に余裕がない場合も多く見られます。具体的にどのようにして解決に導いていくのでしょうか?
曽根:できるだけ現在と将来に向けて考えて頂くことにしています。ご家族で円満に相続手続きをするには、過去にさかのぼらないようにとお伝えしていますね。というのも、過去の不満から責め合ってしまっては円満にいかないからなのです。
亡くなった方への感謝や敬意を表すことや、互いの思いやりを伝え合うことから始めていくように働きかけ、家族のきずなを再認識して頂くようにおすすめします。
編集部:「家族をつなぐキモチノート」というアプリ、なぜ作ろうと思われたのでしょうか?
曽根:親と離れて住んでいる方もいらっしゃれば、一緒に住んでいるのにコミュニケーションが取れていないご家庭が多いと感じています。ことさら、相続のことでもめている家族背景には、普段のコミュニケーション不足が明白です。もっと家族同士がコミュニケーションを取ってもらえたら……という思いから作ったアプリが「家族をつなぐキモチノート」です。
多くのご家庭が、「相続」という現実に直面してから家族と連絡を取り合い、最悪なケースになると、いちばん身近にいる家族が敵になってしまうことも少なくありません。家族の大切さやありがたさなど、家族がいちばん身近な存在だと気付いてもらいたいとも考えました。
編集部:「家族の絆」は現代社会における課題でもありますよね
曽根:メールやラインとはまた違う方法で、家族と身近にコミュニケーションが取れるツールがあればと思いました。
このアプリにはご自身のコンディションを整える機能もついています。COCOLOLOで自分の体調や気持ちをチェックした上で、ご家族にもキモチを伝えていく。
周りを励ます存在になるには、まず自分を整える必要があると考えています。
相続コーディネートという仕事を通し残念だなと感じてしまうのが、ご家庭によっては亡くなった人への感謝ではなく、財産ばかりに目がいってしまうこと。亡くなったご本人が、どんな生き方をしたのか?何を考えていたのか?それすら伝わっていないと感じることが多くありました。
そこで、キモチノートの中に「ありのままの自分」を生前に残してもらうことで「生きた証」にしてほしいし、ご自分の存在価値を家族や周囲に伝えてほしい。
そうすることで、亡くなった方に対して感謝の気持ちや敬意を自然に持てるのではないでしょうか。
残された家族が争わないように。家族の力となり、争わない円満な相続が無形の財産になれば、モノよりも価値があるようにも感じています。
編集部:最後に、家族をつなぐきずな倶楽部読者へメッセージをお願いいたします。
曽根:自分のキモチや生き方を伝えられるように、コミュニケーションを取ることで、自分にもご家族にも思いやりやきずなが生まれます。家族へのコミュニケーションを深め、自分の生きた証を残すことで相続も円満に進められ、それが家族の未来につながります。
私にとって「不動産」と「相続」はライフワークであり、多くの人にアプリ「家族をつなぐキモチノート」や、Webマガジン「家族をつなぐきずな倶楽部」を活用して頂き、活動をサポートして頂きながら、輪を広げられたらなと思います。これからもずっと取り組んでいきたい課題ですが、1人の力では実現しません。多くの人に参加してもらい、輪を広げられたらと思います。
さまざまな相続問題に正面から向き合う曽根恵子さん。家族のコミュニケーションの大切さをアピールし、人と人をつないでいくその姿勢は常にポジティブなものでした。どんなことでも学びと受け止めて「感謝・感激・感動を引き出す」という姿勢は、きっと皆さまにも伝わるものがあるのではないでしょうか。
現在、「一般社団法人家族をつなぐコミュニケーション研究会」では『家族への手紙』を募集中です。
詳細は「家族をつなぐきずな倶楽部」公募欄をご参照ください。
曽根 恵子(そね けいこ) KEIKO SONE
(株)夢相続 代表取締役 、(株)フソウアルファ、(株)グローバル・アイ 代表取締役
一社)家族をつなぐコミュニケーシヨン研究会 代表理事 一社)不動産女性塾 理事
公認 不動産コンサルティングマスター相続対策専門士・不動産有効活用専門士
(株)PHP研究所勤務後、昭和62年不動産会社設立、不動産コンサルティング、相続コーディネート業務を開始。相続相談に対処するため、平成12年NPO法人設立、内閣府認証を取得。平成13年に相続コーディネートを業務とする法人を設立、平成15年に東京中央区八重洲に移転し、平成20年に社名を【(株)夢相続】に変更。
【相続コーディネート実務士】の創始者として1万4300件の相続相談に対処。夢相続を運営し、感情面、経済面に配慮した“オーダーメード相続”を提案。“相続プラン”によって「家族の絆が深まる相続の実現」をサポートしている。
著書に「相続税を減らす生前の不動産対策」(幻冬舎)、「相続はふつうの家庭が一番もめる」(PHP研究所)等多数(著書・監修 50冊、累計 38万部)
家族との絆を深めることで人生をより豊かにするためのヒントを提供するWEBマガジン
家族をつなぐきずな俱楽部:http://kazoku-kizuna.jp
株式会社夢相続:https://www.yume-souzoku.co.jp/
編集:家族をつなぐきずな倶楽部 編集部
]]>現代社会はストレスとの闘いです。「こころを整える」ためにどうすればいいのか、各界の著名人をゲストに招いて家族をつなぐきずな倶楽部編集部がメンタル面の変化に着目しながら切り込んでいく「インタビュー」。
今回のゲストは、株式会社夢相続 代表取締役・曽根恵子さん。
全く別の分野から不動産の世界に入り、実務の中で「相続コーディネート」の必要性を実感したことから相続コーディネートという業務を創り出し、感情面・経済面に配慮した「オーダーメード相続」を提案。
これまで数多くの相続に関する問題と向き合ってきた経験から、家族間のコミュニケーションが重要だとして「一般社団法人家族をつなぐコミュニケーション研究会」を発足させ、家族とキモチを共有する「家族をつなぐキモチノート」のアプリ開発や、ウェブマガジン「家族をつなぐきずな倶楽部」も運営されています。
そんな曽根さんのライフワークとは?前編では相続コーディネートをはじめたきっかけについてお聞きしました。
編集部:どのようなきっかけで相続コーディネートをはじめたのでしょうか?
曽根:相続コーディネートは不動産業の仕事をする中でヒントを得ました。私が不動産賃貸管理会社を立ち上げたのは昭和62年。実は最初に就職したのは出版社の営業で不動産とは全く縁がありませんでした。
結婚を機に専業主婦となり、中小企業診断士だった義理の父親の手伝いをするうちに「不動産ができた方がいいね」という話から宅建の試験を受けることになって。何も知識がない状態から試験に合格したことをきっかけに、不動産業に関わるようになりました。
まずは自宅近くの不動産会社に勤めながら、子ども2人を出産。その後、独立をしました。当時の私には宅建取引士の資格しかありませんでしたので、他の選択肢はなかったのです。
編集部:キャリアが短くても独立の道を選ばれた理由とは?
曽根:子どもが小さかったので会社勤務の方が大変だと思い、自分で会社をつくりました。会社勤めよりも独立した方が自由に動けると思ったのです。
幸い簿記の資格を取っていましたし、義理の父の手伝いをしていた時に会社設立の書類を何度も作成していたので、その経験を生かしました。
その頃はオフコンからパソコンの時代でしたので、会計の専用機も出ていましたし、会社の定款認証や設立登記も全部自分で行いました。
編集部:実際にご自身で不動産会社を始めてみていかがでしたか?
曽根:不動産業のイメージが悪いことに気がついて、愕然としました。会社を立ち上げた昭和62年はバブル経済のはじまりの頃。土地価格が上がり、転売で利益が出る時代となり、不動産業が活性化したものの「土地転がし」と呼ばれるような、利益主義が不動産のイメージとなりました。
当然、男性社会でもありましたので若い女性が取り組める仕事のイメージではありませんでした。
だからこそ、信頼を得るためには自分で実績をつくり、認めてもらおうと考えました。最初に取り組んだのは、アパートやマンションのプランニングをご提案し、建てて頂いて管理する不動産コンサルティングの仕事でした。
自分で考えたコンセプトを提案書にしてオーナーさまにご説明し、決断して頂きました。当時はそのようなコンサルティングがない時代でしたので、お手本はなく、自分で試行錯誤しながら作りました。
現在も不動産会社のコンサルティングは不足しているように思います。
一般的な不動産会社のイメージといえば、「売買」「賃貸」「管理」ですが、不動産業こそ、コンサルティングが必要で提案力が求められていると感じます。
編集部:男性とは違う女性ならではの視点ですね!その後は順調でしたか?
曽根:不動産コンサルティングの仕事は順調で、ご紹介などから少しずつご依頼を頂けるようになり、確実に評価へと繋がりました。不動産コンサルティングや賃貸管理の会社なのに、その間、土地を売却したいというお客様からの依頼が増えてきました。その背景には「相続税の支払い」という問題があったんです。
当社で最初に大家さんになって頂いた方が亡くなったのが丁度その頃。残されたご家族の役に立てればと思いお手伝いをさせて頂きました。それが「相続コーディネート」が必要だと気づくきっかけとなり、この仕事をつくるヒントになりました。
編集部:最初の相続コーディネートはどのような内容でしたか?
曽根:亡くなられた方は1,000坪の土地を所有されていた大家さんで、アパート経営の賃貸業で生活されていました。財産の大部分が土地ですから、預金はほとんどなく、相続税を払える余裕はなかったのです。
ですので、相続税を安くできないかと税理士さんともあれこれ知恵を絞った結果、土地の評価を下げることができれば、亡くなってからでも相続税を安くできることがわかりました。1つは真ん中の私道を分筆して0(ゼロ)評価にしました。
次に新しい路線面をつけて、それぞれの土地を分筆して子どもたちに分けるようにしました。結果、全体の土地の評価が下がり、納税額3,000万円から1,960万円に節税することに成功。土地の売却で納税資金も捻出できたのです。
お客様に貢献ができたこの経験から、不動産業から相続につながる新しいビジネスモデルがつくれると直感しました。「相続をコーディネートする」これが今の事業のコンセプトになっています。
編集部:家族が元気でいる間は考えてもいないのが「相続」のことですが、いつか必ず直面する身近な問題ですよね
曽根:そうですね。相続税は亡くなられた後でもいろいろな方法によって節税が可能です。その事実をもっと多くの人に知って頂けたらと、相続コーディネートで携わった事例をまとめ、書籍にして出版しました。
平成11年に出版した1冊目では、自分がつくってきた実例の一部を取り上げて節税効果などをご紹介しました。
ご自分に近い実例があれば、身近に感じて頂けて多くの方のお役に立てると思っていましたが、反響が大きく全国からご依頼が来るようになりました。
でも、当時は不動産会社のコンサルティング部門が相続コーディネートをしていましたので、お客様の立場からすると相続と不動産会社が結びつかないことも懸念されました。
そこで立ち上げたのがNPO法人。無料相談の窓口としました。相談だけではなく、相続をコーディネートする実務ができる会社も必要になり、「夢相続」をつくりました。
最初は「資産相談センター」次に「相続相談センター」としましたが、「夢を共有する」「家族の絆を深める」この願いを込めて「夢相続」という名称に変更しました。
相続は日常的な家族のテーマですので、前向きでオープンな名前がいいと、今までの発想を超えた名称にしました。
専業主婦だった1人の女性が宅建取引士の資格を取ったことから不動産業へ、さらに「不動産」から「相続」へつなげてつくり出した「相続コーディネート」という新しいビジネスモデルには、家族のきずなをつなぎたいという想いが込められていました。
後編では不動産や相続コーディネートは夢があり、楽しみのある仕事だというお話をお届けします。
曽根 恵子(そね けいこ) KEIKO SONE
(株)夢相続 代表取締役 、(株)フソウアルファ、(株)グローバル・アイ 代表取締役
一社)家族をつなぐコミュニケーシヨン研究会 代表理事 一社)不動産女性塾 理事
公認 不動産コンサルティングマスター相続対策専門士・不動産有効活用専門士
(株)PHP研究所勤務後、昭和62年不動産会社設立、不動産コンサルティング、相続コーディネート業務を開始。相続相談に対処するため、平成12年NPO法人設立、内閣府認証を取得。平成13年に相続コーディネートを業務とする法人を設立、平成15年に東京中央区八重洲に移転し、平成20年に社名を【(株)夢相続】に変更。
【相続コーディネート実務士】の創始者として1万4300件の相続相談に対処。夢相続を運営し、感情面、経済面に配慮した“オーダーメード相続”を提案。“相続プラン”によって「家族の絆が深まる相続の実現」をサポートしている。
著書に「相続税を減らす生前の不動産対策」(幻冬舎)、「相続はふつうの家庭が一番もめる」(PHP研究所)等多数(著書・監修 50冊、累計 38万部)
株式会社夢相続:https://www.yume-souzoku.co.jp/
編集:家族をつなぐきずな倶楽部
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