「人間が人間らしく」


三歳になったら、急におしゃべりになった朔ちゃん。 今まであまりしゃべらなかったから、いっぱい気になることがあって、それで堰を切ったようにおしゃべりになったんだよ。
お母さんが、そのあまりのおしやべりぶりに、いささかつきあい兼ねているらしいが、それは好奇心の強いということだから、頭がいいんだ よ、と伝えておいた。
この朔ちゃんが、成人する頃には、じいじもばあば、この世にはいな いから、これは、20年後の君に宛てた手紙ということになる。
成人した君。大学生か、社会人の成り立てか。いずれにしても、世の 中は大変革を実現していて、電気自動車は当たり前として、水素で走る 水が燃料の車の方が、普及しているかもしれないね。
いずれにしても、自動運転やロボットなど、家の中にもハイテク化が 進んだ結果、人間そのもが、AIの一部のようにならざるを得ない世の中になっているのかなあ。
〈人間疎外〉。それは今でも問題にはなっているけれど、君の時代は、これがもっと大きな問題になっていて“人間とは何か〉という問い掛けが、社会問題になっているかもしれないね。
人間には人間だからやれることと、やれないことがある。 ロボットには恋は出来ないけど、人間には出来る。ロボットが恋が出来ないのは、出来ないのではなく、必要がないから、恋愛しないだけなんだ。ここが大事なところだな。 SFの世界では、人間と同じ感情を持つロボットに進化していくスト ーリィはあるが、必要のないことはやらないのが、サイエンスの世界だから、恋愛ロボットは、存在出来ない。
ロボット化しない人間。これが、君への一番の期待だな。 君の生ている20代の時代は、間違いなく人間がロボットに合わせて生きている時代だから人間が持っているさまざま感情。人を思いやる心とか、愛されるだけでなく、愛することの喜び。これは何も男と女の 恋愛とかだけじゃなく、もっと広い意味での人間関係のことだ。 君の生きている20年後の世界。ロボットはロボット。人間は人間。 ロボットがついているため息は無くても、人間のついているため息な らわかるはず。それがわかる人間になって欲しいね。自分の顔そっくりなロボットを作っているロボット科学者がいる。仕事としては評価するが、ロボットのそっくり君は、やっぱり気持ち悪い んだよ。それは人間じやないからなんだと思う。ロボットの限界だね。 ロボットには出来ない人間の仕事、人間の営み。今の時代よりも、も っと〈人間らしさとは何か〉が問われているような気がするな。 今、三歳の朔ちゃん。20年後は、ロボットそっくりになるなよ。時代は大きく転換しても、そうそう人間は、変われるもんじゃないんだ。人間が人間を大切にする。それがいつの時代も、人間が生きる原点さ。人間とつながる。社会とつながる。それがとても大切なことだと思う。今、三歳の朔ちゃん。20年後は、人間から好かれる人間になっていて、欲しいね。 肌のぬくもり、息遣い。ロボットにならい人間という温かさ。 人間らしく生きるちゃんの20代の青春が、人間らしく輝いていますように…。


(千葉県・M.T/70代・男性)